星野仙一が長嶋茂雄から受けていた挑発とは?そして勝負の結果・・・
2022/04/13
緊迫した勝負の場面。割れんばかりの歓声の中、マウンドに立つ星野仙一投手は驚きの一言を耳にしました。
「仙ちゃん、一番いい球頂戴よ」
声の主は、目の前でバッターボックスに立っているミスタープロ野球、長嶋茂雄選手です。
「この野郎、絶対に打ち取ってやる!」
と大きく振りかぶり、渾身の一球がキャッチャーミットめがけて投げ込まれます。
果たして勝負の行方は…?
今回は共に一時代を築き上げた二人の選手の因縁、そして友情をご紹介します。
巨人キラー星野仙一
星野仙一さんは68年にドラフト会議で1位指名を受け、中日ドラゴンズに入団しました。
力強い速球とキレのある変化球を武器に通算500試合登板し、146勝121敗、34Sをあげました。
そんな星野さんと言えば、何といっても印象深いのは「打倒巨人」のモチベーションです。
ドラフト会議にて、自身がはずれ1位で巨人に指名される予定だったにもかかわらず、巨人は高校生の島野選手を一位指名しました。
結果的に裏切られる形となった星野投手は、
「絶対に巨人には負けない」と選手時代から「闘将」と呼ばれる指導者時代に至るまで、一貫して打倒巨人を掲げていました。
実際に現役時代、巨人相手に30勝以上あげた投手の中で勝ち越しているのは、平松政次投手、川口和久投手、星野仙一投手の3人のみで、一番勝率が高いのは星野選手です。
まさに、打倒巨人を体現していると言えますね。
長嶋茂雄の挑発
その日も闘志むき出しで投球を続ける中で、バッターボックスにはミスタープロ野球、長嶋茂雄選手が立っていました。
そして、冒頭の挑発とも取れる発言です。
長嶋選手と言えば、巨人軍で王貞治選手と並んだ、球界屈指のスター選手でした。
華麗な守備と勝負強いバッティング、そしてお茶目なキャラクターで、ファンから愛されました。
当時はプロ野球よりも東京六大学野球の方が人気があったのですが、その人気をプロ野球に覆したのは59年6月25日の、プロ野球史上唯一の天覧試合で放った長嶋選手のサヨナラホームランだともいわれています。
13年には、愛弟子の松井秀喜選手と共に国民栄誉賞も受賞しました。
巨人V9時代の中心選手として貢献し、当時のプロ野球は王さんと長嶋さんの、いわゆるON砲を中心に回っていたといっても過言ではないでしょう。
そんなスーパースター相手から三振を取るということは、当時の現役投手にとってこれ以上ない喜びでした。
そのため、当時阪神に在籍していた江夏豊投手は、王選手と対戦する際にはキャッチャーフライで抑えられる状況にもかかわらず、捕手に向かって「落とせ!」と叫んダリもしたのだとか。
星野投手も御多分に漏れず、
「長嶋さんからどうしても三振を取りたかった。それが夢だったんだ。チームの勝利は関係ない、王・長嶋から三振を取れたら一面に載れる」と振り返っていました。
そんな状況の中、「いい球頂戴!」という挑発めいた発言に、星野投手が燃えないはずがありません。
しかし、「この野郎!」と振りかぶって投げた渾身のボールは見事にとらえられ、センター方向に抜ける長打となりました。
うなだれる星野投手に対し、きわめつけに
「今のはいい球だ!僕にしか打てない。」と話しかける長嶋選手。
これでまた闘志を燃やす星野投手ですが、
「打たれて腹が立ち、今度こそはと必死に練習した。でも思い返してみれば、勝負にいったボールを投げた時は、長嶋さんは勝敗に関わらずいつも褒めてくれた。長嶋が引退したときに真っ先に泣いたのは、他でもない打たれたピッチャーだったと思う。」
と、のちのインタビューで語っています。
本気の勝負だからこそ、甘いボールだったり打ちやすいボールではなく、一番いい球を打ちたいというのも、皆に慕われるミスターらしい一言だと思いました。
そして、挑発めいた発言の後に星野投手ほどのピッチャーが投げる渾身の球を、見事に打ち返してしまうのもまた、本物のスター選手という感じがしますね。
2人の戦いとその後
その後も数多くの熱戦を繰り広げた二人の対戦成績は、111打数26安打、打率.234と、星野投手が長嶋選手を抑える形となりました。
現役を退いた後も2人は監督として対戦を重ね、球界の発展に大きく貢献しました。
ちなみに監督通算勝利数は、星野監督が1,066勝、長嶋監督が1,034勝と、こちらも星野監督が上回る形となりました。
星野さんは監督としても、その熱い思いを選手たちにも継承し、素晴らしい結果を残しました。
互いのリスペクトが垣間見れるエピソードとして、星野さんは
「俺が頭を下げるのは、長嶋さんと王さんしかいない」と後にコメントしています。
そして18年1月6日、星野仙一さんは惜しまれながらこの世を去ります。
突然の訃報に驚きの声が上がる中、幾多の勝負を重ねた長嶋茂雄さんは、
「あまりに突然のことで、本当に残念でならない。『これからも野球界のために力を貸して』とメッセージを送ったばかり。『打倒巨人』を前面に出してぶつかってきた投手だったからこそ、私も負けずに『さあ仙ちゃん、来い』と心を燃やすことができた。対戦するのが本当に楽しみだった」
とコメントしています。
まとめ
いかがでしたか?
男同士の真剣勝負の中に生まれる、本当の友情がそこにはありました。
「打倒巨人」を貫いて生涯を走り抜いた星野仙一さんの生き方は、私たちを魅了するとともに、学ぶべきことも沢山あったと言えそうです。
星野仙一さんの熱き姿は、勝負を重ねた長嶋茂雄さんの中に、そして心打たれた私たちファンの中に、生き続けることでしょう。
これからのプロ野球でも、この2人のように熱い勝負が展開され、ますます盛り上がっていくと良いですね。